No Man Is an Island Book Blog

世界文学を中心に読みあさっては感想を書き連ねています。素敵な本たちを中心に紹介していきます!

失われた地平線 by James Hilton

シャングリ・ラという言葉を聞いたことがありますか?

きっと多くの人は一度は聞いたことがあるでしょう!

きっかけは忘れたのですが、この言葉の意味が気になって調べたときに、小説「失われた地平線」で出てくる理想郷だということを知りました。

リアルに存在するものではないんだ!ってびっくりでした。

秘境とか理想郷という響きって、すごく神秘的で興味をそそられるので、非常に読みたい欲があったのですが、5年ぐらい読みたい!と思い続けてやっと今回読めました!

 

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まず、ヒルトンの作品は今回2作目でございました。

前に読んだのが、

riza.hatenablog.com

これは映画を先に観ていて後から原作を読んだパターン。

いや、映画観てないかも。

記憶があやふやだー。

大作!って感じでは全然ないんですが、イギリスのパブリックスクールがよくわかる興味深い作品でした。

この作品と雰囲気が全然違うので、同じ作家とはとても思えなかったです。

 

あらすじ

不老不死の人々が住むという、地球に残された最後の楽園、シャングリ・ラ

かの地に不時着したイギリス人領事コンウェイを含む四人の運命やいかに?

深い教養を持つ長寿のラマ僧に手厚い看護を受けた彼らが見たものとは!?

 

ずっと読みたいと思ってきたっていうのもあり、秘境というテーマやシャングリ・ラという神秘的な響きからも、かなりの期待を持っていたのですが・・・。

その期待が逆に良くなかったか。

うーん、そうかあ・・・。

というのが正直な感想でありました。

 

面白いのは面白かった、決してつまらない作品ではなかった。

しかし・・・。

なんか、物語として、浅い気がした。

 

プロローグとエピローグの間に、本章がいくつかという形式です。

プロローグでは、神経病学者である語り手が、パブリックスクールの同窓生と話す中で、飛行機のハイジャック、そしてその飛行機に乗っていたコンウェイという人物のことを知るところから始まる。

同窓生の一人、作家のラザフォードが、ある時船上で偶然出会ったコンウェイから、この飛行機事件について詳しく聞いたという。

その話を一言一句記事にしたものを語り手に渡し、語り手はその奇想天外な冒険物語を読むこととなる。

 

飛行機に乗っていたのは、イギリス領事のコンウェイ、20代の若くて血気盛んな同副領事マリンソン、アメリカ人のバーナード、そして宣教師のミス・ブリンクロウの4人。

明らかに目的地とは別の方向へ向かっていることに気づいたマリンソンがコンウェイに操縦士に事情を聴くように促したところ、向けられたのは銃口

ハイジャックされたのは確かだったというわけ。

 

その後、彼らの飛行機は不時着するが、操縦士に事情を聞こうと見にいくと、ほぼ事切れる寸前だった。

知りたいことはほとんど何も知ることができないままに、彼は亡くなってしまう。

 

奈落の底のような世界に取り残され絶望的だった4人の前に、何やら大勢の僧たちが現れ、コンウェイらが不時着したことを説明すると、彼らが案内してくれることとなった。

彼らはラマ教の僧たち、そして、そこは、シャングリ・ラであった。

 

張という人物に案内され、僧院では連日厚いもてなしを受ける。

こんな世界と切り離されたような場所にあるのに、西洋の技術である上下水道の完備や、西洋のものも含む甚大な数の蔵書を有する図書館、等々、謎の多いラマ僧院。

 

最初は、とにかく、いかにしてここから脱出するか?という目的のみに注意を向けていた4人だったが、次第にそこでの生活にも慣れてゆく。

特に、コンウェイはその達観した様子から張に非常に信頼され、唯一シャングリ・ラの歴史と目的について明かされる。

また、シャングリ・ラ創始者である大ラマとも対談の機会も設けたりする。

 

平和的な空気の流れる世界ではあるものの、僻地といえば僻地で、当然自分には全く関係のない世界であるため、マリンソンはシャングリ・ラでの生活に限界を覚えている。

張や大ラマもそれに気づいてはいるものの、コンウェイはあまり刺激しないで様子をみたいという。

バーナードは訳あり人物で、ミス・ブリンクロウはこれまた達観した宣教師。

マリンソン以外は、シャングリ・ラでの生活に馴染み、順応し、仮にここで生涯を閉じることになっても良いという気にさえなっていた。

 

先述のシャングリ・ラの歴史や、目的などが張、そして大ラマからコンウェイに語られるなど、クライマックスの場面もあるにはあるのだが。

 

しかし、結局、何が言いたいのかよくわからなかったのが私の感想です。

シャングリ・ラは架空の秘境であるものの、チベットラマ教という実存するものが言及されているということは、完全な創造というわけでもない。

つまり、このシャングリ・ラを創造する際に、ある程度の土台はあるということ。

であるならば、もっとチベット文化やラマ教の奥深いところまでが描かれていないと、感銘を受けることができない。

俗世間から離れ、いわゆる西洋文化における映画、ダンス、ポロなどの娯楽や、酒や食事などの俗的な欲望、そういったものから離れ、静謐な場所で瞑想と自己鍛錬にふける。

ここら辺の描写は、確かにチベット周辺におけるイメージのままではある。

そして、西洋文化に嫌気がさした人物らが、完全に真逆を行くようなその世界に平安を見出すのも頷ける。

でも、それがあまりに薄っぺらい。

 

なぜなら、彼らがその瞑想や宗教的行動から得ている最大の恩恵とも言えるものが、長寿だからである。

しかも150歳〜200歳までの長寿層までいるのだから驚きだ。

張という人物も、見た目には非常に若いのに実は超高齢だという。

それは一体なんなのか。

長寿、しかも200歳まで生きる長寿が幸福?恩恵?理想郷?

ピンとこなかったし、うんうん!とも思えなかった。

ラマ教チベット仏教)には詳しくないのですが、大きく見れば日本の仏教とかけ離れてはいないでしょう。

そして仏教は、長い一生に固執する教えではない。

いずれにせよ、作者がラマ教チベット周辺の文化に精通しているとはとても思えない。

だからこその薄っぺらさを感じちゃった。

 

しかも、そもそも拉致されてきてるし・・・。

シャングリ・ラに生きる人物たちは、なかなか進んでそのような欲望を絶った世界にやってくる人間はいない、でも来たら絶対に好きになる、だから拉致しよう、という魂胆なのです。

とんでもなさすぎる。

 

一番若くて、国に家族もいるマリンソンが一番ここでの暮らしに嫌気がさしており、すぐにでも脱出を目指していました。

バーナードは、ネタバレになりますが、実は国で犯罪を冒した人物で、バーナードというのも本名ではない。

ここでの暮らしは予想外ではあったものの、国に帰って投獄されるよりは何倍もマシでここでの生活にも意義を見出している。

ミス・ブリンクロウは、どんな状況に追い込まれても、すべて神の御心なので、受け入れる覚悟。

むしろ、ラマ教の僧たちを改宗させるために、ここに遣わされたのだと信じ、ここでの生活に意味を見出します。

一番謎すぎたのがコンウェイ

彼のその考え深く徳の高い性格が、他の僧からも一目置かれ、大ラマからも大変気に入られる。

家族もない彼は、あまりイギリスへの未練はない。

シャングリ・ラでの不思議な空間に魅せられているといってもよく、ここで一生を終える覚悟もできていた。

 

最後の最後まで脱出を諦めなかったマリンソンは、ようやくそのチャンスを掴む。

シャングリ・ラに物資を届けるために派遣されたであろう運送屋に話をつけ、一緒に出るという計画だった。

コンウェイの覚悟を知らないマリンソンは当然、彼も一緒に逃げてくれると信じ、声をかける。

しかし、大ラマから、シャングリ・ラの未来さえ託されたコンウェイは、脱出の意志はなく断る。

驚くマリンソンとしばらく口論をかわすが、結局コンウェイは折れなかった。

 

しかし・・・

あまりに唐突に、急に、コンウェイシャングリ・ラがやっぱり違う・・・ってなる。

この変化がびっくりするぐらいの変化球で私は目から鱗状態。

WHY!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!

コンウェイの、シャングリ・ラ素晴らしい!⇨シャングリ・ラ違う!

この心境の変化は、たった数行で表わされていたが、全く理解不能も甚だしかった。

それで、あっさり彼は、お世話になった張に挨拶もせず(挨拶なんかしたら逃亡できないから当たり前だが)、マリンソンとその場を後にするのである。

 

コンウェイの口から直接聞けたのは、脱出したまでのところで、その後彼がどうなったかは分からない。

どういう経緯で無事にシャングリ・ラを出たのか、マリンソンはどうなったかなどは、一切語られない。

しかし、それはまあ、そこまで重要ではないかな。

 

シャングリ・ラの理想郷、という位置付けも微妙だし、コンウェイの行動も意味不明だし。

本当に、久しぶりに肩透かしを食らった気分でした。

イギリス人であるヒルトンという作家の求める理想郷はシャングリ・ラなのかもしれない。

そしてその理想郷では、皆歳をとらず、若々しいままでうまくいけば200歳まで生きられる。

俗から離れた修道僧の生き方そのものがヒルトンにとって魅力的に映ったのなら別にそれはいいことだ。

では、なぜコンウェイは最後いきなりそこを去ったのか・・・。

なぜいきなりシャングリ・ラNO!になったのか・・・。

 

ヒルトンの言いたいことは、シャングリ・ラのような理想郷は素晴らしい!

このような地が本当に地球上にあればいいのに!というものだと思って読んでいたのに、最後いきなり否定にかかるから、こりゃ本当にたまげた。

ヒルトンの立場すら、もはや分からないという。

 

どうも、こういう冒険小説には感動しないことが多いな。

大ベストセラーの

riza.hatenablog.com

こちらもポカーンだったし。

となると、私は実はこういう類の話は好きじゃないのかもしれない?!

 

一つ、印象的な場面より。

キリスト教信者であるミス・ブリンクロウが、シャングリ・ラでは何が信仰されているかを、張に尋ねる場面。

「一つの信仰が正しいからといって、ほかのすべては間違いとしなくてはいけませんか?」(86)

これはラマ教の僧である張の答えである。

ある信仰を持つことは気高いこと。

その信仰は少なくとも、その人にとっては真実である。

しかし、それ以外の信仰を持つ人を尊重しなければならないのも当然のこと。

この広い世界において、たった一つの宗教しか存在しない、信仰されない、それを望むことはおよそ不可能なことだと私は思う。

おそらく、布教を考えているミス・ブリンクロウにとっては、そうではない。

彼女にとっては、キリスト教の教えのみが真実でなければならず、全人類がキリスト教信者にならなければならないのだ。

しかし、彼女のこの考えは争いの火種になるのではないだろうか。

あなたにとってそれが真実でも、私にとってはこれが真実なのだ、という姿勢を持っていきたいものです。

 

失われた地平線 (河出文庫)

失われた地平線 (河出文庫)