No Man Is an Island Book Blog

世界文学を中心に読みあさっては感想を書き連ねています。素敵な本たちを中心に紹介していきます!

The Catcher in the Rye by J. D. Salinger

中学生の時に初めて読んで以来、私の中で不動の一位である作品。
最初は図書館で借りて読んで、あまりにもよかったから何度もそのあと図書館で借り続け、ていうかもう買えばいいよねって気づいて、買った。
翻訳を読んで、内容が素晴らしければ、原文でも読む、というのをいつもやるのだが、野崎さんの翻訳を読んで本当に良かった。
ライ麦畑でつかまえて』って何だかすごく素敵なタイトルだと思いませんか。
原題は、ライ麦畑のつかまえ役、という意味になるのであるが、いや、『ライ麦畑でつかまえて』というタイトルにした翻訳者を本当に心の底から尊敬する。
本を読んでいて初めて、ああ、もう少しで終わりそう、読み終わりたくない!と思った作品でもある。
それほどこの作品の世界に魅せられた。
そして、しばらく後にこの原文でも読んだというわけである。


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成績不振で三度目の高校も退学になったホールデン
英語だけは得意だが、他の科目は全て落としてしまったのである。
純粋な心を持っていながらも、半分大人の世界に入りかけている彼は、その狭間で苦しみもがく。
ルームメイトとは分かり合えず、教師からも何の助けを得られない。
絶望した彼は、退学までまだ時間は残っていたものの、寮を飛び出し、ニューヨークの寒空へと飛び込んだ。

ニューヨーク放浪の3日間、たった3日間を描いた作品である。

ニューヨーク放浪の間、彼は様々な経験をする。
様々な人物に出会い、様々な過去の出来事を我々に語る。
ある出来事は素晴らしく、ある人物は彼に感銘を与える。
しかし、他の多くの出会いや出来事は彼を絶望させ、さらに深い悲しみへと追いやる。

何が彼にはそんなに不満なのか。
彼が最も恐れていることはやはり社会の欺瞞ではなかろうか。
自分を思いやるような言葉をかけているように見せながらも、結局大して自分を救ってはくれない教師たち。
コミュニケーションを取ろうと努めても、まるで自分の話を聞こうとしないルームメイトたち。
俗悪なもので固められた多くの人々の会話。
純粋な子供たちの心に忍び寄る醜悪で汚らわしい大人たち。
そんな全てに彼は耐えきれなくなりつつあり、崩壊寸前である。

いつも彼を救うのは、亡くなった弟のアリー。
なぜなら彼は人間として最も素晴らしい存在だったから。
そして、無邪気でまだ純粋さを失っていない妹のフィービー。

ライ麦畑のつかまえ役とは一体何を意味しているのか。
それは本書を読んでいただければ、わかる。
その意味を知った時、きっと何か重いずっしりとしたものを感じられるはずだ。

作品はホールデンの語りで終始する。
堅苦しい文章ではないから非常に読みやすいと思う。
作品に出てくる一つ一つのエピソードを空で言えるほど何度も読んだ。
何度読んでも、毎回心が締め付けられるような感覚を覚える。
決してハッピーな作品ではない。
なぜなら、ホールデンは人生に絶望しているからだ。
子供たちを救いたいけど救えないであろうことに薄々気づきかけているホールデン、それが本当に切ない。
人間嫌いではなく、むしろ人間同士の愛を強く求めるがあまり、現代社会の希薄な人間関係に毎度絶望するホールデン
それでも、私はこの作品から希望を感じる。
それは、やはり最後のシーンがそうさせてくれる。

全てのエピソードが好きだけど、特に好きなのは、何度も何度も鴨のことを気にする場面や、アリーの墓場の場面、ライ麦畑のつかまえ役になりたいという場面、ジェームズ・キャスル少年について語る場面、アントリーニ先生の言葉の場面、そしてフィービーの回転木馬の場面、等々書き出したらきりがなく、もはや特に好きとかなく、全部が特に好きなのだということに気づいてしまった。

ホールデンはあまりにも繊細すぎる。
正直、アメリカの、特にニューヨークのような大都会で生きるには、あまりにも純粋すぎ、また弱さを持ちすぎているように思う。
発展した都会では、田舎などに比べると、人間関係はより複雑になり、また希薄にもなり、金や権力、女や酒、虚栄や嘘、そういったもので溢れかえってくるのは避けられない。
それでも、そこで生きていくしかないのであれば、順応しなければならない。
それができないから苦しむ。
であるならば、うまく順応できない人間は死ぬしかないのか?
あるいは、どこかここではないどこかへ逃げるしかないのか?
サリンジャーの出した答えはいかに。
私は、やはりアントリーニ先生の言葉を信じたい。
ホールデンは、恩人の先生にまで裏切られた!と絶望するが、それでも先生からもらったあのメモは大事に今でも持っているではないか?
これでもかというほど、自分の人間や社会への批判には絶対的な自信があり、自分自身を疑うことはなかった彼が、初めて自己懐疑に陥るのはここが最初で最後ではないか。
先生を疑って、相手に釈明の余地も与えず飛び出したことを後悔すらする。
初めて、何もかも嫌いだ!何もかもうんざりだ!誰も彼も嫌なやつらばかりだ!と断罪の一点張りだった彼が、初めて自分の下した判断に、いや待てよ、と、もしかしたら僕が間違っていたんじゃないか、って思うのだから。

ただこの一作を世に出してくれただけで、サリンジャーへの感謝の思いは一生持ちつづけるだろう。

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)